コラム

7つのムダ⑦ 不良・手直しのムダ

2026/08/17

社会や現場の「あるある」課題

「せっかく作った資料が、差し戻しになった」
「会議で決まったと思ったのに、後から『認識が違った』と言われた」
「メールを送った後にミスに気づき、慌てて訂正した」
「何度も修正しているのに、なぜか仕事が終わらない」

こんな経験は、多くのホワイトカラーにとって日常的なものかもしれません。

やり直し、修正、差し戻し、再確認――。
一つひとつは“仕方ないこと”に見えます。

しかしトヨタ生産方式(TPS)の視点で見ると、
そこにははっきりと 「不良・手直しのムダ」 があります。

製造現場でいう不良とは、
規格を満たしていない製品、あるいはそのままでは顧客に渡せないものです。

それが発生すると、

  • 手直しする
  • 作り直す
  • 廃棄する
  • 再検査する
  • 工程を止める

といった対応が必要になります。

ホワイトカラーの仕事でも、同じです。

  • 誤った情報で資料を作る
  • 条件が揃っていないまま進める
  • 目的とズレたアウトプットを出す
  • 認識が揃わないまま会議を進める
  • 不完全な依頼を受けて後で揉める

こうしたことが起きると、
後から修正・再説明・再調整が発生します。

不良・手直しのムダとは何か

TPSにおける「不良・手直しのムダ」とは、
一度やった仕事が、そのまま価値にならず、やり直しや修正を必要とする状態 を指します。

製造現場では、

  • 寸法違い
  • 組み付けミス
  • 傷や欠陥
  • 条件違い
  • 工程異常による不良品

などが典型です。

重要なのは、不良そのものだけではなく、
その後ろに連鎖するムダです。

  • 手直し工数
  • 再検査
  • 再手配
  • 納期遅れ
  • 信頼低下
  • 他工程への影響

つまり、不良は「1回のミス」ではありません。
流れ全体を壊す大きなムダ です。

ホワイトカラーの“不良”とは何か

ホワイトカラーでは、
不良品が物理的に目の前に現れるわけではありません。

しかし、仕事の中には明確に“不良”があります。

たとえば、

  • 目的に合っていない資料
  • 数字が間違っているレポート
  • 認識がズレたまま進んだ企画
  • 必要情報が欠けた依頼
  • 誤解を生むメール
  • 前提条件が抜けた説明
  • 承認者の観点を外した稟議書

これらはすべて、
そのままでは次工程や相手に価値を渡せないアウトプット です。

だから、

  • 差し戻される
  • 修正が入る
  • 追加説明が必要になる
  • 再会議になる
  • 関係者調整がやり直しになる

という“手直し”が発生します。

しかもホワイトカラーでは、
この手直しが「普通の仕事」として扱われがちです。

  • 何度か修正するのは当たり前
  • 一発で通らないのは仕方ない
  • 後で合わせればいい
  • とりあえず出してから直せばいい

もちろん、仮説をぶつけながら進める仕事もあります。
しかし、毎回のように不要な手戻りが発生しているなら、
それは学習ではなく、不良の常態化 かもしれません。

不良は「個人の注意不足」だけではない

不良・手直しのムダが起きると、
つい「もっと丁寧にやって」と個人に原因を求めがちです。

しかしTPSの考え方では、
問題の多くは 仕組み側にも原因がある と見ます。

たとえば、

  • 依頼の条件が曖昧
  • ゴールの定義が揃っていない
  • レビューの観点が人によって違う
  • 必要情報が最初に揃わない
  • 途中確認のタイミングがない
  • 標準フォーマットがない
  • 判断基準が共有されていない

こうした状態では、
どれだけ真面目な人でも、ズレや漏れが起きやすくなります。

つまり、不良を減らすには
「気をつける」だけでは足りません。

TPSでは、
不良が起きにくい流れをつくる
ことを重視します。

  • 入口条件を明確にする
  • 途中で異常を見つける
  • 標準をつくる
  • その場で止める
  • 次工程に不良を流さない

この考え方は、ホワイトカラーにもそのまま使えます。

「早く出す」と「雑に出す」は違う

ホワイトカラーの現場では、スピードを重視するあまり、
「まず出そう」が強くなりすぎることがあります。

これは一面では大切です。
完璧を目指して出せないより、
早く仮説を出して進めるほうが良い場面は多い。

しかし、ここで大事なのは、

早く出すこと と
不良を出すこと
 は違う、という点です。

たとえば、

  • 相手が判断できる最低限の情報はあるか
  • 目的に対して論点は揃っているか
  • 数字や前提に明らかな誤りはないか
  • 次工程が困らない状態か

ここを満たしていないなら、
それはスピードではなく、単なる不良の先送りです。

TPSの自働化の考え方で言えば、
異常をそのまま流さない ことが重要です。

ホワイトカラーでも同じ。
“とりあえず出す”前に、
次工程に流してよい品質か を見極める必要があります。

ケース:何度も差し戻される稟議書

ある企業の管理部門では、
新しい施策を進めるたびに、稟議書が何度も差し戻されていました。

現場の担当者は、こう感じていました。

  • 上司の言うことが毎回違う
  • どこまで書けばいいのかわからない
  • 一度出しても、別の観点で修正が入る
  • 結局、何回もやり直しになる

一方、承認側も不満を持っていました。

  • 必要な情報が足りない
  • リスクの整理が甘い
  • 予算の前提が曖昧
  • 他部署影響が見えていない

つまり、どちらも悪意はありません。
しかし、
「良い稟議書とは何か」の基準が揃っていなかった のです。

そこで、この会社では次のような見直しを行いました。

  • 稟議書の標準テンプレートを見直す
  • 承認者が見る観点を明文化する
  • 起票前に確認すべき項目をチェックリスト化する
  • 大きな案件は事前相談の場を設ける
  • 差し戻し理由を分類して見える化する

すると、差し戻し回数は減り、
承認までのリードタイムも短くなりました。

重要なのは、
担当者が“もっと頑張った”からではありません。

不良が起きやすい仕組みを、先に整えた のです。

まとめ

「不良・手直しのムダ」は、
ホワイトカラーの現場で非常に大きな損失を生むムダです。

  • 差し戻し
  • 修正
  • 再説明
  • 再会議
  • 再調整
  • やり直し

これらは、単なる“仕事の一部”ではありません。
本来であれば避けられたはずの、
価値を生まない追加工数 です。

そして多くの場合、原因は個人の注意力だけではありません。

  • 入口条件が曖昧
  • ゴールが不明確
  • 標準がない
  • レビュー観点がバラバラ
  • 途中で異常を見つけられない

こうした仕組みが、不良を生みやすくしています。

だから改善のポイントは、

  • 良いアウトプットの基準を揃える
  • 依頼の条件を明確にする
  • テンプレートやチェックリストを整える
  • 途中で小さく確認する
  • 次工程に不良を流さない
  • 差し戻し理由を見える化する

ことです。

TPSは、
“やり直せばいい”とは考えません。

最初から、不良を流さない。
そして、異常があればその場で止める。

この考え方は、ホワイトカラーにこそ効きます。

会議、資料、稟議、メール、企画――
目に見えない仕事だからこそ、
“見えない不良”が流れやすい。

そこに気づけるかどうかが、
仕事の質を大きく分けます。

ホワイトカラー向けのTPS講座(14/50)

次回予告

ムダは“悪”ではない――ムダが教えてくれる組織の癖

 

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