コラム
7つのムダ⑥ 動作のムダ
社会や現場の「あるある」課題
「必要な資料が、どこにあるかわからない」
「メールを開いたり閉じたりしているうちに、何をしようとしていたか飛んでしまう」
「会議のたびに、前回の議事録や数字を探している」
「1日中忙しく動いているのに、肝心の仕事が進んだ感じがしない」
こんな感覚に覚えはないでしょうか。
ホワイトカラーの仕事では、
“座っているだけだから、そんなにムダな動きはない”
と思われがちです。
しかし、トヨタ生産方式(TPS)の目で見ると、
オフィスの中にも確かに 「動作のムダ」 があります。
製造現場でいう「動作のムダ」とは、
- 不自然な姿勢を取る
- 必要以上に歩く
- 取りに行く
- 持ち替える
- 探す
- 届かないものに手を伸ばす
といった、
作業そのものに直接価値を生まない人の動き です。
ではホワイトカラーではどうか。
たとえば、
- ファイルを探す
- 情報を行き来する
- アプリを切り替える
- 同じ内容を何度も確認する
- どこに書いたか思い出す
- 会議前に必要情報をかき集める
こうした“見えない動き”が、
仕事の流れを静かに削っています。
今回は、ホワイトカラーの現場で非常に起こりやすい
動作のムダ を考えていきます。

動作のムダとは何か
TPSにおける「動作のムダ」とは、
人の動きの中にある、価値を生まない余計な動き のことです。
重要なのは、「作業しているかどうか」ではありません。
その動きが、価値を生む仕事に直接つながっているかどうかです。
製造現場では、
- 部品を取るために何歩も歩く
- 工具の置き場が遠い
- 向きを変える必要がある
- 手を何度も持ち替える
- かがむ・伸びるを繰り返す
といった動きが対象になります。
TPSでは、こうした動きを細かく観察し、
作業者が自然に、少ない負担で、流れるように仕事ができる状態を目指します。
つまり、
“人に頑張らせる”のではなく、“ムダな動きをさせない仕組み”をつくる
のです。
ホワイトカラーの動作は「身体」より「認知」に現れる
ホワイトカラーでも、物理的な動作のムダはあります。
- 書類を取りに行く
- 別の部屋に確認に行く
- 印刷して持っていく
- 会議室を探す
しかし現代のオフィスで、より大きいのは
認知的な動作のムダ です。
たとえば、
- どこに保存したか探す
- どの版が最新版か確認する
- メール・チャット・フォルダを往復する
- タスク管理ツールとカレンダーを見比べる
- 会議資料と過去議事録を行き来する
- 思考が中断され、元に戻るのに時間がかかる
これらは、身体はあまり動いていなくても、
頭の中では何度も“行ったり来たり”しています。
そしてこのムダは、本人が「仕事をしている」と感じやすいため、
とても見えにくい。
しかしTPSの視点では、
探す・迷う・戻る・切り替える は、
立派な動作のムダです。
「探す」は、典型的な動作のムダ
ホワイトカラーの現場で最も多い動作のムダの一つが、
探すこと です。
- ファイルを探す
- メールを探す
- チャットの過去ログを探す
- 誰が持っているか探す
- 前回の資料を探す
- 会議URLを探す
1回1回は数十秒、数分かもしれません。
しかし、これが1日に何度も積み重なると、
大きなロスになります。
さらに厄介なのは、
探している間に思考が中断されることです。
- 何をしようとしていたかが飛ぶ
- 別の通知に気を取られる
- 関係ない情報を見てしまう
- 元の作業に戻るまで時間がかかる
つまり「探す」は、
単なる時間ロスではなく、集中の分断 でもあります。
動作のムダは「標準化不足」から生まれる
ホワイトカラーの動作のムダは、
個人の整理整頓の問題に見えがちです。
しかし実際には、
仕組みや標準化の不足 が原因であることが多い。
たとえば、
- フォルダ構成が人によって違う
- ファイル命名ルールがない
- 会議資料の置き場が毎回変わる
- タスク管理方法がバラバラ
- 連絡手段がメール・チャット・口頭で混在している
- 「どこを見ればよいか」が統一されていない
こうした状態では、
一人ひとりが毎回“探しながら”仕事をすることになります。
TPSの考え方では、
ムダを個人の努力で埋めるのではなく、
ムダが起きにくい標準をつくる ことが重要です。
つまり、
- 探さなくてよい置き場
- 迷わなくてよいルール
- 戻りやすい作業単位
- 切り替えを減らす情報設計
が、改善の本質になります。
ケース:会議のたびに“準備で消耗する”営業企画チーム
ある営業企画チームでは、毎週の定例会議の前になると、
メンバーが必ず慌ただしくなっていました。
会議の議題自体は毎週ほぼ同じです。
- 進捗確認
- 数字の確認
- 課題の共有
- 次週アクションの確認
ところが、会議前には毎回こんなことが起きていました。
- 先週の議事録がどこか探す
- 最新の売上データを探す
- 担当者ごとの資料を集める
- どれが最新版か確認する
- 会議URLをチャットで遡る
- 前回決まった宿題を思い出す
会議そのものは1時間なのに、
準備に各人が20〜30分ずつかかっていました。
一見すると、みんな“しっかり準備している”ように見えます。
しかし実際には、かなりの時間が
探す・確認する・行き来する に消えていたのです。
そこでチームでは、次のような見直しをしました。
- 会議ごとの固定フォルダを作る
- 議事録・数字・アクションを同じ場所に置く
- ファイル命名ルールを統一する
- 定例会議のテンプレートを固定する
- 会議URLをカレンダーに統一する
- 前回アクションを冒頭に自動で残す運用にする
その結果、会議準備のバタつきが減り、
会議そのものもスムーズになりました。
削減したのは、会議時間ではありません。
会議の前後に発生していた動作のムダ です。
「動作のムダ」は、
ホワイトカラーの現場ではとても見えにくいムダです。
- 探す
- 迷う
- 行き来する
- 切り替える
- 確認し直す
- 元に戻る
これらは一つひとつは小さく見えても、
毎日積み重なることで、大きなロスになります。
しかも、時間だけではありません。
- 集中が切れる
- 思考が浅くなる
- 判断が遅れる
- 疲労感が増す
- “忙しいのに進まない”感覚が強くなる
という形で、仕事の質そのものを下げていきます。
だから改善のポイントは、
- 探さなくてよい状態をつくる
- 情報の置き場を標準化する
- 命名ルールを揃える
- 会議や定例業務をテンプレート化する
- ツールの使い分けを明確にする
- 切り替え回数を減らす
ことです。
TPSは、
“もっと頑張って速く動け”とは言いません。
むしろ、
ムダな動きをさせない仕事の設計 を重視します。
ホワイトカラーの改善でも、同じです。
頑張り方を変えるのではなく、
動き方そのものを変える。
その視点が、忙しさの質を変えていきます。

ホワイトカラー向けのTPS講座(13/50)
次回予告
「7つのムダ⑦ 不良・手直しのムダ」
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