コラム

7つのムダ⑥ 動作のムダ

2026/08/13

社会や現場の「あるある」課題

「必要な資料が、どこにあるかわからない」
「メールを開いたり閉じたりしているうちに、何をしようとしていたか飛んでしまう」
「会議のたびに、前回の議事録や数字を探している」
「1日中忙しく動いているのに、肝心の仕事が進んだ感じがしない」

こんな感覚に覚えはないでしょうか。

ホワイトカラーの仕事では、
“座っているだけだから、そんなにムダな動きはない”
と思われがちです。

しかし、トヨタ生産方式(TPS)の目で見ると、
オフィスの中にも確かに 「動作のムダ」 があります。

製造現場でいう「動作のムダ」とは、

  • 不自然な姿勢を取る
  • 必要以上に歩く
  • 取りに行く
  • 持ち替える
  • 探す
  • 届かないものに手を伸ばす

といった、
作業そのものに直接価値を生まない人の動き です。

ではホワイトカラーではどうか。

たとえば、

  • ファイルを探す
  • 情報を行き来する
  • アプリを切り替える
  • 同じ内容を何度も確認する
  • どこに書いたか思い出す
  • 会議前に必要情報をかき集める

こうした“見えない動き”が、
仕事の流れを静かに削っています。

今回は、ホワイトカラーの現場で非常に起こりやすい
動作のムダ を考えていきます。

動作のムダとは何か

TPSにおける「動作のムダ」とは、
人の動きの中にある、価値を生まない余計な動き のことです。

重要なのは、「作業しているかどうか」ではありません。
その動きが、価値を生む仕事に直接つながっているかどうかです。

製造現場では、

  • 部品を取るために何歩も歩く
  • 工具の置き場が遠い
  • 向きを変える必要がある
  • 手を何度も持ち替える
  • かがむ・伸びるを繰り返す

といった動きが対象になります。

TPSでは、こうした動きを細かく観察し、
作業者が自然に、少ない負担で、流れるように仕事ができる状態を目指します。

つまり、
“人に頑張らせる”のではなく、“ムダな動きをさせない仕組み”をつくる
のです。

ホワイトカラーの動作は「身体」より「認知」に現れる

ホワイトカラーでも、物理的な動作のムダはあります。

  • 書類を取りに行く
  • 別の部屋に確認に行く
  • 印刷して持っていく
  • 会議室を探す

しかし現代のオフィスで、より大きいのは
認知的な動作のムダ です。

たとえば、

  • どこに保存したか探す
  • どの版が最新版か確認する
  • メール・チャット・フォルダを往復する
  • タスク管理ツールとカレンダーを見比べる
  • 会議資料と過去議事録を行き来する
  • 思考が中断され、元に戻るのに時間がかかる

これらは、身体はあまり動いていなくても、
頭の中では何度も“行ったり来たり”しています。

そしてこのムダは、本人が「仕事をしている」と感じやすいため、
とても見えにくい。

しかしTPSの視点では、
探す・迷う・戻る・切り替える は、
立派な動作のムダです。

「探す」は、典型的な動作のムダ

ホワイトカラーの現場で最も多い動作のムダの一つが、
探すこと です。

  • ファイルを探す
  • メールを探す
  • チャットの過去ログを探す
  • 誰が持っているか探す
  • 前回の資料を探す
  • 会議URLを探す

1回1回は数十秒、数分かもしれません。
しかし、これが1日に何度も積み重なると、
大きなロスになります。

さらに厄介なのは、
探している間に思考が中断されることです。

  • 何をしようとしていたかが飛ぶ
  • 別の通知に気を取られる
  • 関係ない情報を見てしまう
  • 元の作業に戻るまで時間がかかる

つまり「探す」は、
単なる時間ロスではなく、集中の分断 でもあります。

動作のムダは「標準化不足」から生まれる

ホワイトカラーの動作のムダは、
個人の整理整頓の問題に見えがちです。

しかし実際には、
仕組みや標準化の不足 が原因であることが多い。

たとえば、

  • フォルダ構成が人によって違う
  • ファイル命名ルールがない
  • 会議資料の置き場が毎回変わる
  • タスク管理方法がバラバラ
  • 連絡手段がメール・チャット・口頭で混在している
  • 「どこを見ればよいか」が統一されていない

こうした状態では、
一人ひとりが毎回“探しながら”仕事をすることになります。

TPSの考え方では、
ムダを個人の努力で埋めるのではなく、
ムダが起きにくい標準をつくる ことが重要です。

つまり、

  • 探さなくてよい置き場
  • 迷わなくてよいルール
  • 戻りやすい作業単位
  • 切り替えを減らす情報設計

が、改善の本質になります。

ケース:会議のたびに“準備で消耗する”営業企画チーム

ある営業企画チームでは、毎週の定例会議の前になると、
メンバーが必ず慌ただしくなっていました。

会議の議題自体は毎週ほぼ同じです。

  • 進捗確認
  • 数字の確認
  • 課題の共有
  • 次週アクションの確認

ところが、会議前には毎回こんなことが起きていました。

  • 先週の議事録がどこか探す
  • 最新の売上データを探す
  • 担当者ごとの資料を集める
  • どれが最新版か確認する
  • 会議URLをチャットで遡る
  • 前回決まった宿題を思い出す

会議そのものは1時間なのに、
準備に各人が20〜30分ずつかかっていました。

一見すると、みんな“しっかり準備している”ように見えます。
しかし実際には、かなりの時間が
探す・確認する・行き来する に消えていたのです。

そこでチームでは、次のような見直しをしました。

  • 会議ごとの固定フォルダを作る
  • 議事録・数字・アクションを同じ場所に置く
  • ファイル命名ルールを統一する
  • 定例会議のテンプレートを固定する
  • 会議URLをカレンダーに統一する
  • 前回アクションを冒頭に自動で残す運用にする

その結果、会議準備のバタつきが減り、
会議そのものもスムーズになりました。

削減したのは、会議時間ではありません。
会議の前後に発生していた動作のムダ です。

「動作のムダ」は、
ホワイトカラーの現場ではとても見えにくいムダです。

  • 探す
  • 迷う
  • 行き来する
  • 切り替える
  • 確認し直す
  • 元に戻る

これらは一つひとつは小さく見えても、
毎日積み重なることで、大きなロスになります。

しかも、時間だけではありません。

  • 集中が切れる
  • 思考が浅くなる
  • 判断が遅れる
  • 疲労感が増す
  • “忙しいのに進まない”感覚が強くなる

という形で、仕事の質そのものを下げていきます。

だから改善のポイントは、

  • 探さなくてよい状態をつくる
  • 情報の置き場を標準化する
  • 命名ルールを揃える
  • 会議や定例業務をテンプレート化する
  • ツールの使い分けを明確にする
  • 切り替え回数を減らす

ことです。

TPSは、
“もっと頑張って速く動け”とは言いません。

むしろ、
ムダな動きをさせない仕事の設計 を重視します。

ホワイトカラーの改善でも、同じです。
頑張り方を変えるのではなく、
動き方そのものを変える。

その視点が、忙しさの質を変えていきます。

ホワイトカラー向けのTPS講座(13/50)

次回予告

「7つのムダ⑦ 不良・手直しのムダ」

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