コラム
未来VSMの描き方――理想論ではなく“流れの改善案”を描く
社会や現場の「あるある」課題
「現状分析まではできるのに、その先が“理想論”になってしまう」
「VSMを描いたあと、『もっとシンプルに』『もっと速く』で終わってしまう」
「改善案を出したつもりが、現場では『それは無理です』で止まってしまう」
ホワイトカラーの改善活動では、こうしたことがよくあります。
現状VSMを描くと、ムダや停滞が見えてきます。
そこまでは良い。
しかし、その次に描くべき未来VSMで、急に議論がふわっとしてしまうのです。
- 承認をなくそう
- 会議を減らそう
- 情報共有を強化しよう
- AIを使おう
- 標準化しよう
方向性としては間違っていないことも多い。
けれど、それだけでは現場は変わりません。
TPS(トヨタ生産方式)の改善は、
“あるべき姿”を語ることではなく、
流れを実際に良くする具体策を設計することです。
未来VSMも同じです。
未来VSMは、夢の設計図ではありません。
“今の現場で、どの流れを、どう変えれば、どれだけ良くなるか”を描く改善案です。

未来VSMは“理想像”ではなく“次の現実”
未来VSMという言葉から、
「理想のフローを描くもの」
というイメージを持たれがちです。
しかし、TPS的に言えば、
未来VSMは単なる理想図ではありません。
本質は、
“次に実現する流れ”を描くことです。
つまり、
- 今より確実に良くなる
- 現場で実行可能である
- 改善の打ち手が具体的である
- 効果を確認できる
この4つを満たす必要があります。
たとえば、
- 「承認をゼロにする」
- 「会議をなくす」
- 「すべて自動化する」
こうした案は、一見すっきりしています。
ですが、多くの場合、現場では実装できません。
未来VSMは、
“理想を語って満足する図”ではなく、
改善の仮説を現実に落とし込んだ図であるべきです。
未来VSMを描くときの基本ステップ
ホワイトカラー業務で未来VSMを描くときは、次の順で考えると整理しやすくなります。
1.まず“何を短くしたいか”を明確にする
未来VSMで最初に決めるべきは、
どの時間を減らしたいのかです。
TPSでは、改善の狙いが曖昧だと、対策が散らかります。
ホワイトカラーのVSMでは、主に次の3つがあります。
- リードタイム(案件完了までの全体時間)
- 待ち時間(承認待ち、返答待ち、会議待ちなど)
- 戻り回数(差し戻し、手戻り、再確認)
たとえば、
- 提案書作成を5日→3日にしたい
- 稟議の承認待ちを半減したい
- レビュー差し戻しを平均1.5回→0.5回にしたい
このように、何を縮めるかがはっきりすると、未来VSMは具体的になります。
2.“消したい工程”ではなく“減らしたいムダ”を見る
ホワイトカラーの改善では、つい
「この会議をなくそう」
「この承認を削ろう」
と、工程そのものを消したくなります。
もちろん、それが有効な場合もあります。
ただし、TPS的には、
工程を敵にするのではなく、その工程の中のムダを見ることが大切です。
たとえば、
- 会議が悪いのではなく、事前準備不足で会議が長い
- 承認が悪いのではなく、承認基準が曖昧で戻りが多い
- レビューが悪いのではなく、観点が人によって違う
- メールが悪いのではなく、最新版管理ができていない
この視点を持つと、未来VSMは“破壊”ではなく“改善”になります。
3.“一気に理想”ではなく“1段よい流れ”を描く
未来VSMでありがちな失敗は、
一足飛びに完璧を目指すことです。
- 全社でルール統一
- すべての資料テンプレート刷新
- 全承認フローの再設計
- システム導入前提の改善
これでは、図は描けても、動きません。
TPSの改善は、
小さく、確実に、回る改善が基本です。
たとえば、
- 上司レビューを“定例会議待ち”から“即日15分枠”へ変える
- 差し戻しを減らすためにレビュー観点を3項目だけ明文化する
- 他部署確認の前に必要な入力項目をテンプレート化する
- 週1回の会議前に、事前共有フォーマットを統一する
未来VSMは、
「理想の完成形」より、
“次にやる改善”が織り込まれた図のほうが強いのです。
未来VSMでよく使う改善の視点(ホワイトカラー版)
未来VSMを描くとき、ホワイトカラー業務では特に次の視点が有効です。
1.待ちを減らす
- 承認タイミングを固定する
- レビューの即時枠をつくる
- 会議待ちをなくし、短い確認に置き換える
- 他部署依頼の締切・返答条件を明確にする
“正味作業”より“待ち”が長い現場では、ここが最重要です。
2.戻りを減らす
- 初期要件のすり合わせを明確にする
- レビュー観点を標準化する
- 完成条件(Doneの定義)をそろえる
- テンプレートやチェックリストを使う
戻りは、時間だけでなく、心理的疲労も大きいムダです。
3.流れを切らさない
- 割り込みルールを決める
- 版管理を統一する
- 作業単位を細かくしすぎない
- まとめて処理するものと即時処理するものを分ける
ホワイトカラーの仕事は、流れが見えないぶん、断絶に鈍感です。
未来VSMでは、“つながって流れる”設計が重要です。
4.判断を前倒しする
- 後工程で差し戻される論点を前工程で確認する
- 上司が気にする観点を最初から盛り込む
- 他部署が必要とする情報を先に集める
- 承認前の“非公式根回し”を標準化して表に出す
これはTPSでいう“後戻りの予防”に近い考え方です。
後で止まるなら、前で揃える。
未来VSMでは非常に効きます。
未来VSMは“打ち手付き”で描く
未来VSMで最も大事なのは、
図だけで終わらせないことです。
「こう流れたらいいですね」
で終わる図は、会議資料としてはきれいでも、現場は変わりません。
未来VSMは、各変更点に対して
“何を変えるのか”を具体的にひもづける必要があります。
たとえば、
- 工程A→Bの待ち1日 → 毎日16時に確認枠を固定
- レビュー差し戻し1.5回 → レビュー観点シート導入
- 他部署確認の往復2回 → 入力テンプレート統一
- 版混乱 → ファイル命名ルール+保管場所一本化
つまり、未来VSMは
改善施策の配置図です。
図と打ち手が結びついたとき、
初めて「やってみよう」が生まれます。
ケース紹介:採用選考プロセスの未来VSMを描き直した人事部門
ある企業の人事部門では、中途採用の選考スピードが課題になっていました。
現状VSMを描くと、次のような状態でした。
- 書類選考後、面接日程調整に平均4日
- 面接官コメントの回収に2日
- 合否判断会議が週1回のため待ちが発生
- オファー条件確認で人事・現場・役員の往復
- 候補者への連絡が都度担当依存
全体リードタイムは平均18日。
候補者辞退も増えていました。
最初に出た改善案は、
「もっと早く対応する」
「面接官の意識を変える」
というものでした。
しかし、未来VSMを描き直す際に、
“理想論”ではなく“流れの改善案”として整理しました。
実施したのは次のようなことです。
- 面接日程候補を最初から複数提示し、調整待ちを短縮
- 面接官コメントは当日中入力の簡易フォーム化
- 合否判断を週1会議から、条件付きで即日判定可能に変更
- オファー条件の確認項目を事前テンプレート化
- 候補者連絡を「誰が・いつまでに」まで標準化
この内容を未来VSM上に反映し、
「どこが、どう短くなるか」を見えるようにしました。
結果、全体リードタイムは18日から10日に短縮。
辞退率も改善しました。
ここで重要なのは、
「採用をもっと頑張る」ではなく、
流れのどこを変えれば、自然に速くなるかを描けたことです。
それが、未来VSMの価値です。
まとめ
未来VSMは、理想を語る図ではありません。
流れを良くするための、実行可能な改善案です。
ホワイトカラー業務で未来VSMを描くときは、次を意識すると効果的です。
- 何を短くしたいか(リードタイム、待ち、戻り)を明確にする
- 工程を消す前に、その中のムダを見る
- 一気に完璧を目指さず、“1段よい流れ”を描く
- 待ち・戻り・断絶・判断の後ろ倒しを減らす
- 図だけで終わらせず、変更点に具体的な打ち手をひもづける
TPSの改善は、
大きな改革より、
流れをよくする小さな設計変更の積み重ねです。
未来VSMも同じです。
「理想論」ではなく、
現場で回る“次の現実”を描くこと。
それが、VSMを“分析の道具”から“改善の道具”へ変えるポイントです。

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VSMは“図を描くこと”が目的ではない
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