コラム
VSMで見える“仕事しているのに進まない”の正体
社会や現場の「あるある」課題
「みんな忙しそうなのに、なぜか案件が前に進まない」
「会議もしている、メールも返している、資料も作っている。それなのに成果物がなかなか出てこない」
「各担当は頑張っているのに、全体としては停滞感がある」
ホワイトカラーの現場で、こうした声は珍しくありません。
むしろ、多くの職場で“当たり前”のように起きています。
問題は、誰かが怠けているわけではないことです。
一人ひとりは真面目に動いている。
それでも進まない。
この状態は、個人の努力不足ではなく、仕事の流れそのものに滞りがある可能性が高いのです。
ここで役立つのが、これまで取り上げてきた**ものと情報の流れ線図(VSM)**です。
VSMで流れを描くと、「仕事しているのに進まない」状態の正体が、驚くほど具体的に見えてきます。

“忙しい”と“進んでいる”は同じではない
TPS(トヨタ生産方式)が重視するのは、単なる稼働率ではありません。
人が動いているか、手が埋まっているかではなく、価値が流れているかを見る考え方です。
ホワイトカラーの現場では、しばしば次のような状態が起きます。
- 会議に出ている
- メールに返信している
- 資料を修正している
- 上司に確認している
- 他部署と調整している
どれも「仕事をしている」ように見えます。
しかし、VSMで見ると、その多くは流れを進める行為ではなく、
流れが止まっている間に発生している行為であることがあります。
つまり、忙しさの中に、
“前に進んでいる仕事”と“止まっているから発生している仕事”が混在しているのです。
VSMで見える3つの停滞パターン
VSMでホワイトカラー業務を描くと、「進まない」原因は大きく3つに整理できます。
1.待ちが長い
最も典型的なのがこれです。
- 上司の承認待ち
- 他部署からの返答待ち
- 顧客の確認待ち
- 会議日程が合うまでの待ち
- 担当者の空き待ち
作業そのものは30分で終わるのに、
次に進むまで2日、3日とかかる。
これが積み重なると、リードタイムの大半は「待ち時間」になります。
VSMは、この待ちを可視化するのに非常に強力です。
各工程の作業時間だけでなく、工程間の滞留時間を書き込むことで、
「どこで流れが止まっているか」が一目で分かります。
2.戻りが多い
ホワイトカラー業務では、完成したと思った仕事が戻ってくることがよくあります。
- 資料の差し戻し
- 要件の再確認
- 承認後の修正依頼
- 認識違いによる作り直し
- 会議で決まったはずの内容の再議論
これは単なる修正ではなく、
流れが前進していないサインです。
VSMで戻りを矢印やループとして描くと、
「この工程は毎回、次で止められて戻ってくる」
「ここで認識ズレが頻発している」
という“再発ポイント”が見えてきます。
TPSで言えば、これはムダであると同時に、
標準や確認条件が曖昧な場所を教えてくれる重要な情報でもあります。
3.細切れ化している
ホワイトカラーの仕事は、まとまった時間で進めたほうが速いものが多い一方で、
現実には次のように細切れにされがちです。
- メールが来るたびに中断
- チャット通知で思考が途切れる
- 別件会議に呼ばれる
- 急ぎ案件が差し込まれる
- 承認が来たので元の作業に戻る
一見すると「マルチタスクで頑張っている」ように見えますが、
VSMで描くと、これは流れの中に何度も断絶が入っている状態です。
製造現場でいえば、ラインが頻繁に止まっているのに近い。
この断続的な中断は、見えにくい大きなムダです。
“人が悪い”ではなく、“流れが悪い”と捉える
VSMの大きな価値は、問題の焦点を
「誰が悪いか」から「どこで流れが滞るか」へ移せることです。
進まない仕事を前にすると、組織はついこう言いがちです。
- もっとスピード感を持とう
- 主体性を持とう
- 報連相を徹底しよう
- 各自が責任を持とう
もちろん大切なことです。
しかし、それだけでは改善しないことが多い。
なぜなら、原因が個人ではなく、
構造としての停滞にあるからです。
VSMは、
「この工程で2日止まる」
「この承認で毎回戻る」
「ここで情報が分断される」
というように、
感覚論ではなく、流れの事実として捉えさせてくれます。
これは、ホワイトカラーの現場で特に重要です。
目に見えない仕事ほど、精神論に流れやすいからです。
ケース紹介:提案書作成プロジェクトが“進まない”営業企画部門
ある企業の営業企画部門では、顧客向けの提案書作成に毎回時間がかかっていました。
現場の声はこうでした。
- 「みんなかなり動いている」
- 「残業もしている」
- 「でも提出がいつもギリギリ」
- 「品質も安定しない」
当初、管理職は
「段取りが悪い」
「担当者のスピード意識が足りない」
と考えていました。
そこで、提案書作成の流れをVSMで描いてみました。
すると、次のことが見えてきました。
- 初回ヒアリング後、構成案の確認まで平均2日待ち
- 上司レビューで平均1.5回差し戻し
- 他部署の数字確認に毎回半日〜1日
- 顧客向け表現の修正で、営業と企画の間を2〜3往復
- メールでの断片的やりとりにより、最新版が分かりにくい
実際の作業時間を合計すると、
提案書を形にする“正味作業”は約6時間程度。
しかし、顧客提出までのリードタイムは平均5営業日でした。
つまり、
仕事が遅いのではなく、流れが止まりすぎていたのです。
そこで、次の改善を行いました。
- 構成案の確認を定例会議待ちにせず、15分の即時レビュー枠を設定
- 上司レビューの観点を事前に標準化
- 他部署確認が必要な数字をテンプレート化
- 提案書の版管理ルールを統一
- 営業と企画の認識合わせを冒頭15分で実施
結果、リードタイムは5営業日から3営業日に短縮。
残業時間も減り、提案品質のばらつきも小さくなりました。
ここで重要なのは、
誰かを“もっと頑張らせた”のではなく、
流れを良くしたことで、頑張りが成果につながるようになったことです。
まとめ
「仕事しているのに進まない」状態は、
ホワイトカラーの現場で非常によく起こります。
そして、その原因はしばしば個人の能力や意識ではなく、
仕事の流れの滞りにあります。
VSMで見ることで、次のような正体が見えてきます。
- 待ちが長い
- 戻りが多い
- 仕事が細切れ化している
- 忙しさと前進が混同されている
- 個人の問題に見えて、実は構造の問題になっている
TPSの視点で言えば、
見るべきは「人が動いているか」ではなく、
価値が流れているかです。
ホワイトカラーの生産性向上とは、
気合いで速く動くことではありません。
流れを止める構造を見つけ、流れやすい仕事の形に変えることです。
VSMは、そのための非常に有効な道具です。

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