コラム
ものと情報の流れ線図(VSM)とは何か
社会や現場の「あるある」課題
「忙しいのに、なぜか成果につながっている実感がない」
「会議もメールも多いのに、仕事が前に進んでいない気がする」
「業務改善をしようとしても、どこにムダがあるのか分からない」
ホワイトカラーの現場で、こうした声は少なくありません。
一人ひとりは懸命に動いている。
しかし全体を見ると、仕事が滞り、手戻りが発生し、必要以上に時間がかかっている。
その原因は、多くの場合、“仕事の流れ全体が見えていない”ことにあります。
製造現場では、こうした流れを可視化するために
「ものと情報の流れ線図(VSM:Value Stream Mapping)」
という考え方が使われます。
「VSMは工場のためのもの」
そう思われがちですが、実はそれは大きな誤解です。
むしろ、目に見えない仕事が多いホワイトカラーこそ、
VSMの力を借りることで、初めてムダが見えてくることがあります。

VSMとは、“流れ”を描いてムダを見つける技術
VSM(Value Stream Mapping)は、直訳すれば
「価値の流れを地図にする」手法です。
製品やサービスが顧客に届くまでに、
どのような工程を通り、
どこで情報がやり取りされ、
どこで待ちや停滞が生じているかを、
一枚の図にして見えるようにします。
ポイントは、単なる工程表ではないことです。
VSMで見たいのは、
「何をしているか」だけでなく、
「どこで止まっているか」
「どこで戻っているか」
「どこで余計な判断や確認が入っているか」
という“流れの質”です。
なぜホワイトカラーにこそ必要なのか
製造現場では、モノが目の前を流れるので、滞留や仕掛かりが比較的見えやすい。
一方、ホワイトカラーの仕事は、
メール、会議、資料、承認、依頼、確認、差し戻しといった
“見えないもの”が流れています。
だからこそ、こんなことが起きます。
- 誰かの受信箱で仕事が止まっている
- 承認待ちで数日寝ている
- 情報不足で差し戻される
- 同じ内容を別の資料に転記している
- 会議で決まらず、次回会議に持ち越される
どれも、現場では「仕方ない」「よくあること」として流されがちです。
しかしTPSの視点で見れば、これは明確に流れの阻害要因です。
VSMは、この“見えない滞留”を見える形に変えてくれます。
VSMは「工程の図」ではなく「時間の図」でもある
VSMで特に重要なのは、
加工時間(実際に価値を生んでいる時間)と滞留時間(待っている時間)を分けて考えることです。
たとえば、ある提案書作成業務を考えてみましょう。
- 担当者がドラフトを書く:2時間
- 上司確認待ち:2日
- 修正対応:1時間
- 関係部署確認待ち:3日
- 最終提出:30分
この場合、実際に手を動かしている時間は
合計3.5時間しかありません。
しかし、完了までには5日以上かかっています。
ここに、ホワイトカラー業務の本質的なムダがあります。
「忙しい」のに「進まない」――
その正体は、しばしば
作業時間ではなく、待ち時間の長さなのです。
VSMは、それを感覚ではなく、構造として示してくれます。
“もの”と“情報”を分けて考えるのがポイント
VSMという名前の中には、
「もの」と「情報」という2つの視点が含まれています。
製造現場では、
- もの=部品や製品
- 情報=生産指示や発注情報
ですが、ホワイトカラーではこう置き換えると分かりやすいでしょう。
- もの=資料、申請書、見積書、企画書、議事録、タスクそのもの
- 情報=依頼、承認、判断基準、優先順位、指示、確認事項
ここでよくあるのは、
「もの」は動いているのに、「情報」が流れていない状態です。
たとえば、
- 資料は作られたが、誰が承認するか曖昧
- 依頼は出たが、完了条件が不明
- 会議で宿題は出たが、優先順位が共有されていない
こうなると、仕事は“進んでいるようで進まない”。
VSMは、この情報の詰まりもあぶり出せるのが強みです。
ケース紹介:営業提案書づくりをVSMで見てみる
あるBtoB企業の営業部門では、
「提案書づくりに時間がかかりすぎる」という悩みがありました。
担当者は、
「案件ごとに事情が違うから仕方ない」
「営業は属人性が高いから標準化しにくい」
と感じていました。
そこで、提案書作成から提出までの流れを、簡単なVSMとして描いてみました。
現状の流れ
- 営業が顧客ヒアリング
- 提案骨子をメモで作成
- 上司に口頭相談
- パワポ作成
- 技術部に確認依頼
- 技術部の返信待ち
- 修正
- 部長承認
- 再修正
- 提出
図にしてみると、見えてきたのは次のような事実でした。
- 技術部への確認依頼の内容が毎回ばらばら
- そのため、技術部側で「何を答えればよいか」が分からず差し戻しが発生
- 上司・部長の承認基準が暗黙知で、修正のやり直しが多い
- 営業本人の作業時間は4時間程度だが、提出まで3日かかっていた
つまり問題は、
「営業の資料作成スキル不足」ではなく、
流れの中にある情報の曖昧さと承認の滞留だったのです。
このケースでは、
- 技術確認用の依頼テンプレートを作る
- 提案書のレビュー観点を事前共有する
- 部長承認の前に上司確認のチェックポイントを標準化する
という対策により、
リードタイムが大幅に短縮されました。
ここで重要なのは、
個人の頑張りではなく、流れそのものを改善したことです。
これがTPS的な改善の発想です。
まとめ
- VSM(ものと情報の流れ線図)は、価値が流れる全体像を見える化する手法
- 製造現場だけでなく、ホワイトカラー業務にも非常に有効
- ホワイトカラーでは、資料やタスクだけでなく、承認・確認・依頼といった「情報の流れ」が重要
- 「忙しいのに進まない」の正体は、作業時間よりも待ち時間や差し戻しにあることが多い
- VSMは、個人の能力ではなく、仕事の流れそのものを改善する視点を与えてくれる
TPSの改善は、
「もっと頑張ろう」ではありません。
「流れを見よう」です。
ホワイトカラーの現場でも、
まずは一つの業務を取り上げ、
どこから始まり、どこで止まり、どこで戻るのか。
その“流れの地図”を描くところから、改善は始まります。

ホワイトカラー向けのTPS講座(17/50)
次回予告
VSMは“ブルーカラーだけの道具”ではない
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