コラム

ホワイトカラー業務をVSMで描く――まず何を“もの”とみなすか

2026/09/03

社会や現場の「あるある」課題

「VSMが大事なのは分かる。でも、何を描けばいいのか分からない」
「工場なら部品や製品を追えばいい。でも事務や営業では“もの”がない」
「仕事はあるのに、図にしようとすると急に手が止まる」

ホワイトカラーの現場でVSM(ものと情報の流れ線図)を紹介すると、
最初につまずきやすいのがここです。

“ものと情報”の流れ線図と言われても、
そもそも自分たちの仕事における「もの」とは何なのか。

この問いに答えられないと、
VSMは「理屈は分かるが、自分たちには使えない手法」になってしまいます。

しかし実際には、
ホワイトカラーの仕事にも、確かに“流れているもの”があります。

ただし、それは工場のように目に見える部品ではありません。
多くの場合、
資料・依頼・判断材料・申請・タスク・案件・問い
といった、形の定まりにくいものです。

だからこそ、
ホワイトカラーでVSMを使う最初の一歩は、
「自分たちにとって、何が流れているのか」を定義することにあります。

VSMの「もの」は、“価値を運ぶ単位”で考える

ホワイトカラーでVSMを描くとき、
「もの」を物理的なモノとして考えると、途端に難しくなります。

ここで発想を変える必要があります。

VSMにおける「もの」とは、
**顧客や次工程に価値を渡していく“単位”**です。

つまり、形があるかどうかではなく、
何が仕事として受け渡されているかで考えます。

たとえば、

  • 営業なら:見積書、提案書、案件情報
  • 人事なら:応募者情報、評価シート、採用判断
  • 経理なら:申請書、請求書、支払依頼
  • 開発なら:要求仕様、設計レビュー資料、課題票
  • 総務なら:申請、依頼、問い合わせ対応チケット

これらは、すべて“もの”として扱えます。

共通しているのは、
誰かから誰かへ渡され、次の仕事を生み出す単位
であることです。

ホワイトカラーでは「紙」ではなく「案件」を追うこともある

ここで大切なのは、
必ずしも“書類そのもの”を追う必要はないということです。

たとえば営業の仕事で、
「提案書」という成果物を追うこともできますが、
実際にはその背後にある
**“案件”**を流れの主体として捉えたほうが、改善につながることが多い。

同じように、

  • 採用業務なら「候補者」
  • 問い合わせ対応なら「問い合わせ案件」
  • 経費精算なら「申請件」
  • 商品開発なら「テーマ」や「仕様変更案件」

を“もの”として見ることができます。

つまり、ホワイトカラーVSMでは、
「書類」だけでなく、
仕事のまとまりそのものを“もの”とみなしてよいのです。

むしろ、こちらのほうが実態に合うケースは少なくありません。

「もの」と「情報」を分けると、詰まりが見える

ホワイトカラーでVSMを描くときに重要なのは、
“もの”と“情報”を意識的に分けることです。

ここが曖昧だと、
「なんとなく忙しい」以上の発見が生まれにくくなります。

たとえば、見積対応業務を例にすると、

もの

  • 問い合わせ案件
  • 見積依頼書
  • 見積ドラフト
  • 提出版見積書

情報

  • 顧客要件
  • 原価条件
  • 納期条件
  • 社内承認ルール
  • 技術的制約
  • 優先順位

この2つを分けて見ると、
次のような問題が見えてきます。

  • “もの”は進んでいるが、“情報”が不足して差し戻される
  • “情報”は揃っているが、“もの”が誰かの手元で止まる
  • “もの”はできているが、“情報”としての判断基準が曖昧で承認が遅れる

つまり、ホワイトカラーの流れを止めるのは、
単に仕事量ではなく、
ものと情報のズレであることが多いのです。

最初に描くなら、「一番困っている業務」を選ぶ

VSMを初めてホワイトカラーで使うとき、
いきなり部門全体を描こうとすると失敗しやすくなります。

おすすめは、
現場が日常的に困っている、具体的な一業務から始めることです。

たとえば、

  • 提案書づくりに時間がかかる
  • 見積回答が遅い
  • 採用の内定までが長い
  • 経費精算の差し戻しが多い
  • 社内稟議がなかなか通らない
  • 問い合わせ対応の抜け漏れがある

こうした「あるある」の業務は、
現場の当事者がイメージしやすく、
改善の実感も得やすい。

そして、その業務について、

  • 何がスタートか
  • 何がゴールか
  • 途中で誰に渡るか
  • 何が受け渡されるか

を確認していくと、
自然と「もの」が定義されていきます。

最初から正解を求めなくて構いません。
むしろ大事なのは、
現場の会話の中で、“私たちは何を流しているのか”を言葉にすることです。

ホワイトカラーVSMでよくある“もの”の候補

実務で使いやすいように、
ホワイトカラー業務における“もの”の代表例を整理しておきます。

  1. 成果物型
  • 見積書
  • 提案書
  • 申請書
  • 議事録
  • 契約書
  • 報告書
  • 仕様書
  1. 案件型
  • 顧客案件
  • 問い合わせ案件
  • 採用候補者
  • クレーム対応件
  • 開発テーマ
  • 改善テーマ
  1. タスク型
  • 依頼タスク
  • 修正依頼
  • 承認タスク
  • 確認依頼
  • レビュー依頼
  1. 判断型
  • 稟議案件
  • 採否判断
  • 優先順位決定
  • 方針決定
  • 例外処理判断

どれを“もの”とするかは、
業務の目的によって変わります。

重要なのは、
現場の改善課題に対して、何を追うと流れが見えやすいか
という視点です。

ケース紹介:経費精算業務をVSMで描いてみる

ある企業の管理部門では、
「経費精算が遅い」「差し戻しが多い」という悩みがありました。

現場では、
「申請者のミスが多いから仕方ない」
「月末に集中するから回らない」
という見方が一般的でした。

そこで、経費精算業務をVSMで描くことにしました。

最初、担当者は
「何を“もの”として見ればいいのか分からない」
と戸惑っていましたが、話し合いの結果、
**“1件の経費申請”**を流れの主体として捉えることにしました。

流れ

  1. 申請者が申請入力
  2. 上司承認
  3. 経理確認
  4. 差し戻しまたは確定
  5. 支払処理

ここで“もの”は、
経費申請1件です。

一方、“情報”としては、

  • 領収書の有無
  • 勘定科目
  • 申請理由
  • 参加者情報
  • 会社ルールの適用条件

が流れに大きく影響していました。

図にしてみると、見えてきたのは、

  • 差し戻しの多くが「申請者の不注意」ではなく、ルールの分かりにくさに起因していた
  • 上司承認が「内容確認」ではなく「形式確認」に時間を使っていた
  • 経理が毎回同じ説明を繰り返していた

という構造でした。

このケースでは、

  • 入力画面に判断ガイドを追加
  • よくある差し戻し項目を事前チェック化
  • 上司承認の観点を整理
  • 経理への確認が必要な例外条件を明確化

したことで、差し戻し率が下がり、処理時間も短縮しました。

ここでのポイントは、
「書類」ではなく、
“経費申請1件という仕事の単位”を“もの”として捉えたことです。

これが、ホワイトカラーVSMの実践的な考え方です。

まとめ

  • ホワイトカラーでVSMを使う最初の壁は、「何を“もの”とみなすか」である
  • VSMの“もの”は、物理的なモノではなく、「価値を受け渡す単位」で考える
  • 見積書・申請書・提案書などの成果物だけでなく、案件・候補者・問い合わせ・稟議なども“もの”になり得る
  • “もの”と“情報”を分けて見ることで、差し戻しや滞留の構造が見えてくる
  • 最初は、現場が困っている具体的な一業務を選び、その中で何が流れているかを言語化するのがよい

ホワイトカラーの仕事は、
「見えない」のではありません。
“何を追えばいいか”が曖昧なだけです。

だからこそ、
VSMの第一歩は、線を引く前に、
「私たちは何を流しているのか」
を問い直すことにあります。

そこが定まれば、
改善はぐっと現実的になります。

ホワイトカラー向けのTPS講座(19/50)

次回予告

VSMで“情報の渋滞”を見つける

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