コラム
ホワイトカラー業務をVSMで描く――まず何を“もの”とみなすか
社会や現場の「あるある」課題
「VSMが大事なのは分かる。でも、何を描けばいいのか分からない」
「工場なら部品や製品を追えばいい。でも事務や営業では“もの”がない」
「仕事はあるのに、図にしようとすると急に手が止まる」
ホワイトカラーの現場でVSM(ものと情報の流れ線図)を紹介すると、
最初につまずきやすいのがここです。
“ものと情報”の流れ線図と言われても、
そもそも自分たちの仕事における「もの」とは何なのか。
この問いに答えられないと、
VSMは「理屈は分かるが、自分たちには使えない手法」になってしまいます。
しかし実際には、
ホワイトカラーの仕事にも、確かに“流れているもの”があります。
ただし、それは工場のように目に見える部品ではありません。
多くの場合、
資料・依頼・判断材料・申請・タスク・案件・問い
といった、形の定まりにくいものです。
だからこそ、
ホワイトカラーでVSMを使う最初の一歩は、
「自分たちにとって、何が流れているのか」を定義することにあります。

VSMの「もの」は、“価値を運ぶ単位”で考える
ホワイトカラーでVSMを描くとき、
「もの」を物理的なモノとして考えると、途端に難しくなります。
ここで発想を変える必要があります。
VSMにおける「もの」とは、
**顧客や次工程に価値を渡していく“単位”**です。
つまり、形があるかどうかではなく、
何が仕事として受け渡されているかで考えます。
たとえば、
- 営業なら:見積書、提案書、案件情報
- 人事なら:応募者情報、評価シート、採用判断
- 経理なら:申請書、請求書、支払依頼
- 開発なら:要求仕様、設計レビュー資料、課題票
- 総務なら:申請、依頼、問い合わせ対応チケット
これらは、すべて“もの”として扱えます。
共通しているのは、
誰かから誰かへ渡され、次の仕事を生み出す単位
であることです。
ホワイトカラーでは「紙」ではなく「案件」を追うこともある
ここで大切なのは、
必ずしも“書類そのもの”を追う必要はないということです。
たとえば営業の仕事で、
「提案書」という成果物を追うこともできますが、
実際にはその背後にある
**“案件”**を流れの主体として捉えたほうが、改善につながることが多い。
同じように、
- 採用業務なら「候補者」
- 問い合わせ対応なら「問い合わせ案件」
- 経費精算なら「申請件」
- 商品開発なら「テーマ」や「仕様変更案件」
を“もの”として見ることができます。
つまり、ホワイトカラーVSMでは、
「書類」だけでなく、
仕事のまとまりそのものを“もの”とみなしてよいのです。
むしろ、こちらのほうが実態に合うケースは少なくありません。
「もの」と「情報」を分けると、詰まりが見える
ホワイトカラーでVSMを描くときに重要なのは、
“もの”と“情報”を意識的に分けることです。
ここが曖昧だと、
「なんとなく忙しい」以上の発見が生まれにくくなります。
たとえば、見積対応業務を例にすると、
もの
- 問い合わせ案件
- 見積依頼書
- 見積ドラフト
- 提出版見積書
情報
- 顧客要件
- 原価条件
- 納期条件
- 社内承認ルール
- 技術的制約
- 優先順位
この2つを分けて見ると、
次のような問題が見えてきます。
- “もの”は進んでいるが、“情報”が不足して差し戻される
- “情報”は揃っているが、“もの”が誰かの手元で止まる
- “もの”はできているが、“情報”としての判断基準が曖昧で承認が遅れる
つまり、ホワイトカラーの流れを止めるのは、
単に仕事量ではなく、
ものと情報のズレであることが多いのです。
最初に描くなら、「一番困っている業務」を選ぶ
VSMを初めてホワイトカラーで使うとき、
いきなり部門全体を描こうとすると失敗しやすくなります。
おすすめは、
現場が日常的に困っている、具体的な一業務から始めることです。
たとえば、
- 提案書づくりに時間がかかる
- 見積回答が遅い
- 採用の内定までが長い
- 経費精算の差し戻しが多い
- 社内稟議がなかなか通らない
- 問い合わせ対応の抜け漏れがある
こうした「あるある」の業務は、
現場の当事者がイメージしやすく、
改善の実感も得やすい。
そして、その業務について、
- 何がスタートか
- 何がゴールか
- 途中で誰に渡るか
- 何が受け渡されるか
を確認していくと、
自然と「もの」が定義されていきます。
最初から正解を求めなくて構いません。
むしろ大事なのは、
現場の会話の中で、“私たちは何を流しているのか”を言葉にすることです。
ホワイトカラーVSMでよくある“もの”の候補
実務で使いやすいように、
ホワイトカラー業務における“もの”の代表例を整理しておきます。
- 成果物型
- 見積書
- 提案書
- 申請書
- 議事録
- 契約書
- 報告書
- 仕様書
- 案件型
- 顧客案件
- 問い合わせ案件
- 採用候補者
- クレーム対応件
- 開発テーマ
- 改善テーマ
- タスク型
- 依頼タスク
- 修正依頼
- 承認タスク
- 確認依頼
- レビュー依頼
- 判断型
- 稟議案件
- 採否判断
- 優先順位決定
- 方針決定
- 例外処理判断
どれを“もの”とするかは、
業務の目的によって変わります。
重要なのは、
現場の改善課題に対して、何を追うと流れが見えやすいか
という視点です。
ケース紹介:経費精算業務をVSMで描いてみる
ある企業の管理部門では、
「経費精算が遅い」「差し戻しが多い」という悩みがありました。
現場では、
「申請者のミスが多いから仕方ない」
「月末に集中するから回らない」
という見方が一般的でした。
そこで、経費精算業務をVSMで描くことにしました。
最初、担当者は
「何を“もの”として見ればいいのか分からない」
と戸惑っていましたが、話し合いの結果、
**“1件の経費申請”**を流れの主体として捉えることにしました。
流れ
- 申請者が申請入力
- 上司承認
- 経理確認
- 差し戻しまたは確定
- 支払処理
ここで“もの”は、
経費申請1件です。
一方、“情報”としては、
- 領収書の有無
- 勘定科目
- 申請理由
- 参加者情報
- 会社ルールの適用条件
が流れに大きく影響していました。
図にしてみると、見えてきたのは、
- 差し戻しの多くが「申請者の不注意」ではなく、ルールの分かりにくさに起因していた
- 上司承認が「内容確認」ではなく「形式確認」に時間を使っていた
- 経理が毎回同じ説明を繰り返していた
という構造でした。
このケースでは、
- 入力画面に判断ガイドを追加
- よくある差し戻し項目を事前チェック化
- 上司承認の観点を整理
- 経理への確認が必要な例外条件を明確化
したことで、差し戻し率が下がり、処理時間も短縮しました。
ここでのポイントは、
「書類」ではなく、
“経費申請1件という仕事の単位”を“もの”として捉えたことです。
これが、ホワイトカラーVSMの実践的な考え方です。
まとめ
- ホワイトカラーでVSMを使う最初の壁は、「何を“もの”とみなすか」である
- VSMの“もの”は、物理的なモノではなく、「価値を受け渡す単位」で考える
- 見積書・申請書・提案書などの成果物だけでなく、案件・候補者・問い合わせ・稟議なども“もの”になり得る
- “もの”と“情報”を分けて見ることで、差し戻しや滞留の構造が見えてくる
- 最初は、現場が困っている具体的な一業務を選び、その中で何が流れているかを言語化するのがよい
ホワイトカラーの仕事は、
「見えない」のではありません。
“何を追えばいいか”が曖昧なだけです。
だからこそ、
VSMの第一歩は、線を引く前に、
「私たちは何を流しているのか」
を問い直すことにあります。
そこが定まれば、
改善はぐっと現実的になります。

ホワイトカラー向けのTPS講座(19/50)
次回予告
VSMで“情報の渋滞”を見つける
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