コラム

VSMで“情報の渋滞”を見つける

2026/09/07

社会や現場の「あるある」課題

「仕事そのものは難しくないのに、なぜか前に進まない」
「担当者は動いているのに、案件全体が止まって見える」
「資料はできているのに、確認や承認で何日もかかる」

ホワイトカラーの現場で起きる“停滞”の多くは、
実は作業そのものではなく、
情報の流れに原因があります。

  • 誰に確認すればいいのか分からない
  • 何を判断基準にすればいいのか曖昧
  • 必要な前提情報が揃っていない
  • 承認者ごとに見るポイントが違う
  • 依頼したつもりでも、相手には意図が伝わっていない

こうした状態では、
一人ひとりは忙しく動いていても、
仕事全体は前に進みません。

これは、道路でいえば
“車は走っているのに、どこかで渋滞している”
のと同じです。

そして、ホワイトカラーの現場では、
その渋滞は目に見えません。

だからこそ、VSM(ものと情報の流れ線図)が必要になります。

VSMは、単に仕事の順番を描く道具ではありません。
「どこで情報が滞っているか」をあぶり出す道具でもあるのです。

ホワイトカラーのムダは、“情報の渋滞”として現れる

製造現場では、ムダは比較的見えやすい。
仕掛品がたまる、工程が止まる、作業者が手待ちになる。

一方、ホワイトカラーでは、
同じようなムダが、次のような形で現れます。

  • メールの返信待ち
  • 承認待ち
  • 判断待ち
  • 資料差し戻し
  • 会議後の宿題停滞
  • 他部署確認待ち
  • “一旦持ち帰り”の連続

つまり、ホワイトカラーのムダは、
情報の滞留・不足・ズレとして現れるのです。

たとえば、提案書作成業務で考えると、

  • 顧客要件が曖昧なまま着手する
  • 技術確認に必要な情報が不足する
  • 上司が何を見て承認するのか共有されていない
  • 部門間で前提条件が食い違う

こうした情報の乱れがあると、
資料は作られても、
何度も止まり、戻り、やり直しが発生します。

ここで問題なのは、
「誰かがサボっている」わけではないことです。

むしろ、みんな一生懸命なのに進まない。
その原因が、情報の渋滞です。

VSMで見るべきは、“情報が渡る瞬間”

ホワイトカラーVSMで重要なのは、
単に工程を並べることではありません。

本当に見るべきなのは、
“誰から誰へ、どんな情報が、どんな状態で渡っているか”
です。

たとえば、こんな受け渡しを見ます。

  • 営業 → 技術部
  • 担当者 → 上司
  • 会議 → 宿題担当者
  • 人事 → 現場面接官
  • 経理 → 申請者
  • 開発 → 品質保証

この“受け渡し”の場面で、
次のようなことが起きていないかを見ます。

  • 依頼内容が曖昧
  • 目的が共有されていない
  • 完了条件が不明
  • 優先順位が伝わっていない
  • 判断基準が人によって違う
  • 必要情報が抜けている
  • 口頭だけで履歴が残らない

VSMにこれを書き込んでいくと、
「どこで流れが悪くなっているか」が見えてきます。

ホワイトカラーの改善は、
しばしば“作業改善”よりも、
情報の受け渡し改善のほうが効きます。

“情報の渋滞”は3種類ある

実務で見ると、情報の渋滞は大きく3つに分けられます。

  1. 情報不足の渋滞

必要な情報が足りず、次工程が進められない状態です。

例:

  • 見積依頼に必要仕様が入っていない
  • 採用面接の評価コメントが短すぎる
  • 経費申請に理由が書かれていない

この場合、次工程は必ず確認や差し戻しを行うことになります。

  1. 情報過多の渋滞

逆に、情報が多すぎて、重要なポイントが埋もれる状態です。

例:

  • 長いメールに論点が埋もれている
  • 会議資料が多すぎて判断ポイントが見えない
  • 添付ファイルが乱立し、どれが最新版か分からない

ホワイトカラーでは、
「情報が多い=良い」ではありません。

必要な情報が、必要な形で届いているか。
ここが重要です。

  1. 情報不一致の渋滞

関係者の間で、前提や判断基準が揃っていない状態です。

例:

  • 上司と部長で承認観点が違う
  • 営業と技術で納期認識が違う
  • 人事と現場で採用基準がずれている

このタイプは特に厄介で、
表面上は情報があるのに、
実際には“通じていない”ため、
何度もやり直しが発生します。

VSMでは、「作業時間」より「止まる理由」を書く

ホワイトカラーでVSMを描くとき、
製造現場のように秒単位・分単位の作業時間を厳密に取ることが難しい場合があります。

もちろん、時間を把握することは大切です。
しかし、それ以上に有効なのは、
“どこで止まり、その理由は何か”
を書き出すことです。

たとえば、

  • 技術確認で1日止まる → 依頼フォーマットがなく、情報不足
  • 部長承認で2日止まる → 判断基準が暗黙知
  • 会議後タスクが3日止まる → 誰がいつまでにやるか不明
  • 経理確認で差し戻し → 例外ルールが共有されていない

こうして見ると、
問題は「担当者が遅い」ではなく、
止まる構造が埋め込まれていることが分かります。

ここにTPS的な改善の入り口があります。

ケース紹介:社内稟議が進まない本当の理由

ある企業では、
「稟議が遅い」「決裁に時間がかかる」
という不満が慢性的にありました。

現場では、
「承認者が忙しいから仕方ない」
「決裁者のスケジュール次第だ」
と考えられていました。

しかし、稟議プロセスをVSMで描いてみると、
問題は“承認者の忙しさ”だけではありませんでした。

流れ

  1. 起案者が稟議書作成
  2. 上司確認
  3. 部門長確認
  4. 管理部門確認
  5. 役員決裁

一見シンプルですが、
各工程で止まる理由を見ていくと、

  • 起案段階で、必要な添付資料の認識が曖昧
  • 上司は収益性を重視、部門長はリスクを重視、管理部門は形式を重視
  • それぞれの観点が事前共有されていない
  • 管理部門からの差し戻し理由が毎回似ている
  • 役員は論点が整理されていないと判断を保留しがち

つまり、
流れていないのは書類ではなく、
判断に必要な情報”でした。

このケースでは、

  • 稟議の種類ごとに必要添付資料を明確化
  • 承認者ごとの確認観点を整理
  • 起案時に「論点・判断ポイント」を冒頭に記載
  • よくある差し戻し理由を事前チェック化

したことで、差し戻しが減り、決裁速度が改善しました。

ここで効いたのは、
「承認を急がせる」ことではありません。
承認に必要な情報の流れを整えたことです。

これが、ホワイトカラーVSMの真価です。

まとめ

  • ホワイトカラーのムダは、作業そのものより「情報の渋滞」として現れやすい
  • VSMは、工程を描くだけでなく、「どこで情報が止まるか」を見つける道具である
  • 特に重要なのは、“誰から誰へ、どんな情報がどう渡るか”という受け渡しの瞬間
  • 情報の渋滞は、「不足」「過多」「不一致」の3種類で捉えると整理しやすい
  • 改善の焦点は、担当者の頑張りではなく、情報の受け渡し構造にある

ホワイトカラーの仕事は、
人が多く動くほど、複雑になりやすい。
そして複雑になるほど、
問題は“作業”ではなく“情報”に潜みます。

だからこそ、VSMで見るべきは、
「誰が何をしたか」だけではありません。
**「誰が、誰に、何を、どんな状態で渡しているか」**です。

そこが見えたとき、
改善は一気に具体的になります。

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次回予告

会議・メール・承認フローはVSMでどう見えるか

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